学生
プロローグは、突然やってきた。
依頼があって技術者が取り組む。いわゆる開発という常識を打ち破った方程式。「欠席届申請システム」は、そんな発想から誕生した。
ある日、矢谷は、ゼミの教授である八重樫から声をかけられた。「紙で申請している欠席届を電子にできないかな?」一瞬、矢谷は考えたが、すぐにその思いを悟った。香川DXラボでは、現場で困っている課題を開発するデジタルの在り方を探っていたが、それは、待っているのではなく、こちらから提案していくことに意義があると理解していた。「やります!」矢谷は二つ返事で引き受けた。
第一歩は、ぼんやりとした自信。
欠席届は、授業を休む際に、担当の先生ごとにアポを取り、申請書にハンコをもらい、提出していくという面倒くさい手続きが必要だった。矢谷自身も、1週間ほど休んだ経験があり、その時にかなりの負担を強いられた。学生の立場から見ても、職員の事務作業からしても、「欠席届」は、小さな問題児であったことに間違いはない。「これは、何とかしたい。いや、多分、何とかできる」矢谷には、漠然とした自信があった。
手探り。四苦八苦。トライ&エラー。
できるとは思っていても、システム開発がそうそうパッと完成するわけではない。矢谷も最初は延々と悩む時間を過ごした。「どうしたらうまく進むのだろう」。着地点の答えに触れられる方法は?それは、システム開発を数打つこと。現場の声をキャッチすること。「考えられることはすべてやる」。それしかなかった。ラクをしようと思ったら、それなりの努力がいるのだ。矢谷はがむしゃらに取り組んだ。現場の職員さんを巻き込んで、試行錯誤を続けていった。
進むべき道を照らす明かりは、不思議なことにふとした時に訪れる。「これだ」。矢谷の頭にアイデアがひらめいた。そこで、まずはプロトタイプをつくった。香川DXラボでは、スピードを何より大切にしている。システム開発も、つくりながら調整し、使いながらブラッシュアップしていくアジャイル型開発が基本だ。
そうすることで、修正ポイントがすぐにわかり、何をどうすればいいのかが明確になっていく。
矢谷もアジャイル型開発で、欠席届を「欠席届申請システム」へと昇華させていった。この間、わずか2~3か月。驚くべきスピード感である。
最小限の技術で最大の効果。
開発をする時、香川DXラボでは、簡単な技術を使って最大の効果をあげられるように心がけている。それは、現場で使う人が、後々も自分たちで使いこなしていけるようにするためだ。
「技術者は、ともすれば難しい技術を駆使するのがいいと思いがちですが、簡単な技術で誰もが使える方がベター」と矢谷。デジタル化は、使う人の立場にたった、人に優しいものであることが大事。矢谷もシステム開発をしたその後のことをいつも考えている。デジタルをもっと身近に。もっと便利に。香川DXラボの面々たちは、それを実現している。