- 香川大学のDXラボで学生スタッフとして学内システムの開発を経験し、卒業後は情報部の職員になった岩河朱音さん。プログラミングが得意でなくてもローコード・ノーコードで手を動かし、分からないことは企業の方や教員に聞いて進めてきました。職員になって半年、ライセンスの数や予算、セキュリティなど学生時代には見えなかった制約が視界に入り、つくる力と止める判断の両方を持つようになったと語ります。平日は職員、休日は大学院生。ゼミは17時半以降、課のノー残業デーは水曜日という小さな調整が両立を支えます。DX人材を育てたい大学関係者、働きながら学び直したい方へ、学内の内製開発を担う職員が育つ過程をお届けします。
職員
【DXラボスタッフに聞いてみた】DXラボ 学生スタッフから大学職員へ・岩河 朱音
スタッフが開発したシステムはこちらをご覧ください
香川大学には、学内のシステムを自分たちの手でつくる「DXラボ」という現場があります。教職員だけでなく学生スタッフも実際の開発に加わり、大学の困りごとをシステムで解いていく組織です。
今回お話をうかがった岩河朱音さんは、そのDXラボで学生スタッフとして活動したのち、香川大学の情報部職員になりました。しかも、働きながら大学院にも通っています。
この記事がほかのスタッフの記事と違うのは、「つくる側の学生」から「守る側・運用する側の職員」へ立場が変わったときに、何が見えるようになったのかを本人の言葉でたどっている点です。ライセンスの数、予算、セキュリティなど、学生のときは考えずに済んでいた制約が、職員になった途端に視界に入ってくる。その変化を、半年という生々しいタイミングで語ってもらいました。あわせて、平日は職員・休日は大学院生という二足のわらじの、飾らない時間の使い方も聞いています。
※インタビュー内容の一部はMicrosoft Copilotを用いて自動要約し、一部修正を加えたものです。
自己紹介
米谷:本日はよろしくお願いします。私は香川大学DX推進研究センターの教員で、米谷雄介といいます。岩河さんの大学院での指導教員でもあります。
木村:情報システム課の木村悠佑です。岩河さんとはDXラボの学生時代から一緒に活動していて、いまは同じ課で働く先輩という立場です。よろしくお願いします。
岩河:岩河朱音です。香川大学情報部の情報システム課に所属していて、ライセンスやアカウントの管理、内製開発の技術的な問い合わせへの調査、それからAIエージェントの開発などを担当しています。あわせて大学院にも通っていて、創発科学研究科の情報社会ユニットに所属しています。研究テーマは就職活動の情報を扱うエージェントです。職員になってから、ちょうど半年が経ちました。
米谷:緊張せずに、ふだんお話しするような感じで進めましょう。
木村:率直に思っていることをそのまま話してもらえればと思います。
岩河:はい、よろしくお願いします。
プログラミングが得意でなくても入れた──ローコード・ノーコードという入口
米谷:まずDXラボに参加した時期ときっかけ、それから当初の期待や不安を教えてもらえますか。
岩河:参加した時期は、学部4年生になる時だったかなと思います。入ろうと思ったきっかけは、学生が学内のシステム開発に関われるというのが、とても面白そうだなと思ったからです。それこそ落とし物管理システムとかを見たときに、実際の課題の中でどういったシステムを開発できるかを考えるのに興味を持って、参加したいなと思いました。
米谷:なるほど。面白さの源泉は、実務に根ざした形で実際のシステム開発に携われるところだった、ということですね。不安はなかったですか。
岩河:最初は、プログラミングがあんまり得意じゃなかったので、その辺ちょっとどうかなという不安はあったんです。でも入ってみたら、ローコード・ノーコードで作れたので、安心したかなという感じです。
米谷:それはすごく大事なポイントですね。「情報系だから開発ができる」のではなくて、道具立てのほうが先に不安を消してくれた、と。
岩河:そうですね。手を動かせる形から入れたのが大きかったと思います。
木村:外から見ていても、そこは安定していましたよ。DXラボにいた頃から真面目にコツコツやる学生だなと思っていて、定例会議で見る頃には、もうそれなりの形ができている。安定感があるなあと思って見ていました。
「何をつくるか」はプレスリリースを書きながら決まった
米谷:DXラボで携わったプロジェクトについても聞かせてください。共同研究先の企業とのプロジェクト研究のお話が中心になるでしょうか。
岩河:はい。教務システムを利用した開発の中で、香川大学内にどこの高校から何人学生が来ているかを可視化するシステムをつくっていました。役割としては全体的に開発をしていて、APIを使ってデータを取ってきたり、BIをつくるときにどういったものを表示したらいいか、どのように配置したほうが見る人が見やすいかを考えながら開発していました。
米谷:その「在校生の出身高校を可視化する」という方向で行こう、と決まったのは、どういうきっかけだったんですか。誰かのアドバイスだったのか、チームで決めたのか。
岩河:チームで決まりました。プレスリリースとかを書いていたときに、高校生と大学生がつながれるものが少ないという話になったんです。もともと別のメンバーが、大学生が高校生にアドバイスするシステムをつくろうとしていて、その関連もあって。どの方面から何人この大学に来ているかが分かったら、高校生も先輩がいるから来やすくなるんじゃないか、という話になって、それをつくることになったと思います。
米谷:面白いですね。手を動かす前に文章を書いてみることで、課題のほうが先にはっきりしたわけですね。
岩河:そうですね。誰に届けたいのかが先に決まったので、表示する内容も決めやすかったです。
木村:そこは学生だけで話を進めるんじゃなくて、企業の方や先生も同じ会議にいる場だったのが効いていると思いますね。
分からないことは「分からない」と言って聞きに行く
米谷:共同研究先の企業のご担当の方とは、どんなやり取りをされていたんですか。
岩河:APIの使い方から教えてもらうという感じでした。「ここにこれを入れたら何々が取れる」といったことを教えてもらったり。あとはPower Automateでフローをつくってデータを取ってくるときに、なかなかうまくいかなかったりしたんですけど、「ここの繰り返しがちょっと違うんじゃないかな」というアドバイスをもらったりしていました。
米谷:行き詰まったとき、岩河さんはどうしていたんですか。
岩河:エラーが起きたりしたときは、人に聞くようにしていました。APIを使ったり教務システムを利用した開発をしたりするのも初めてだったので、分からないことも結構多かったんですけど、分からないときは「分からない」と言って、同じチームの人とか先生とかに聞いて、仕事を進めていきました。
米谷:先生方からの支援というと、たとえばどんな感じでしたか。
岩河:浅木森先生からは、BIをつくるときに「デジタル庁のダッシュボードの作り方みたいなのがあるよ」と教えてもらって、それを参考にしながらつくってみました。それで、つくったBIを先生に見てもらって、「もうちょっとこうしたほうがいいんじゃないか」「こういった情報があったらいいんじゃないか」というアドバイスをもらって修正していました。
米谷:なるほど。自分から積極的に相談しに行くというのは、岩河さんの特徴として見えてきた気がします。
木村:そうなんですよね。私のところに「どうしたらいいですか」という質問が来ることは、そんなになかったんです。私に来るまでに、周りの学生や指導教員の米谷先生に相談が適宜できていて、定例会議で見る頃にはちゃんと形になっている。いま聞いて、そういうことだったんだなと腑に落ちました。
いちばん達成感があったのは、開発ではなくSSL証明書の更新でした
米谷:DXラボでの活動で、印象に残っている成功や失敗はありますか。
岩河:印象に残っている成功は、開発とかではないんですけど、SSL証明書の更新の作業をラボの中で頼まれたことがあって。最初は全然分からなかったんですけど、自分で調べたり、周りの人に聞いたりというのを繰り返して、やっと更新作業が終わったときは、すごい達成感がありました。
米谷:おお、そこですか。それはちょっと意外でした。
岩河:あとは、失敗かどうか分からないんですけど、欠席届申請システムでエラーが起きていないかを確認していて、エラーが起きたときにフローを改善しようという話になったんです。でもフローの修正があんまりうまくできなくて、行き詰まって頓挫した、ということがありました。
米谷:正直に話していただいてありがとうございます。そのときはどうされたんですか。
岩河:周りの人に聞いたりアドバイスをもらったりして、なるべく成功させられるようにするというのは意識していました。
米谷:うまくいかなかったことも含めて、「調べる」と「聞く」の両輪で進めていたわけですね。華やかな開発だけでなく、こういう地味な運用作業に達成感を覚えるところが、いまの情報部のお仕事にもつながっていそうです。
岩河:そうですね。運用の作業も、終わったときの手応えはちゃんとあります。
職員になって初めて見えた、ライセンスと予算とセキュリティ
米谷:いまは情報部の職員として、どんな役割を担っているんですか。
岩河:AIエージェントの内製開発では、ヘルプデスクのお問い合わせの回答例を自動で作成してくれるエージェントの開発や、このスタッフブログの記事作成のエージェントの改善などを行っています。クラウド基盤のほうでは、アカウントの作成や削除、ライセンスの管理といったことをしています。
米谷:職員になると責任や権限も変わってきます。学生時代には気づかなかった制約や責任で、気づいたポイントはありますか。
岩河:学生のときだったら、ライセンスのこととかもあんまり考えずに、どんどん開発していこうみたいな感じで、好きなように開発ができていたような気がするんです。でも職員になってみたら、ライセンスの数に限りがあったり、予算の関係であまりたくさん買えないとか、そういったことが見えてきました。
米谷:それは学生の立場では本当に見えないところですね。ほかにもありますか。
岩河:セキュリティに関しても、「これ使っても大丈夫かな」みたいな情報を扱うことがあったりします。個人的な情報とかは、AIが学習しないとはいえ、あんまり入れたらよくないよね、という話はしたりしますね。
米谷:ブラックボックスになっているところや、想定外の挙動を意識しながらやったほうがいい、というお話ですね。つくる力だけでなく、止める判断も職員の仕事になってくる。
岩河:はい。使える技術があるからこそ、使っていいかを先に考えるようになりました。
「特に困っていません」と言われたところから、何かできないかを探す
米谷:学生・教員・職員・企業の方との協業で、職員になってから変わったことや意識していることはありますか。
岩河:いまはデジタルONEアンバサダーの職員さんのところへ訪問に行ったりしているんですけど、お話を聞く中で、あんまり困ってなさそうな感じではあるんです。システム開発につなげられるような業務がなかったりすると思うんですけど、その中でも何かできないかなというのは、自分の中で考えたりしているところです。
米谷:言われたことをそのまま鵜呑みにするんじゃなくて、まだ少しでも良くなるところがないか探されている、という感じですかね。
岩河:はい、そうですね。
米谷:その「探す」ときの手がかりは、どこから来ているんでしょう。
岩河:学生時代の講義やDXラボでの活動の中でも、そのシステムに関わってくる人が誰がいるかとか、どういった流れで処理が進んでいくかということを考えながら、システムを開発するということをしてきました。その経験が、いま開発していく中でも特に生きているんじゃないかなと思います。
米谷:ただ言われたものを作るのではなく、その業務を支えている人と流れのほうまで思いを馳せて開発できている、ということですね。
岩河:そうですね。だから、お話を聞いていて「困っていない」と言われても、どこかに手を入れられる余地はないかなと考えてしまうところはあります。
木村:現場の業務って、長年ずっと引き継いでやってきているものが多いので、「これが最適解だろう」という前提で回っているんですよね。だから「DXと言われても思いつかないですね」となる。でも、もっと良くなる方法があると知らないだけ、という可能性は大いにあると思っていて、そこは岩河さんの持っている情報技術が武器になると思っています。
岩河:いまはまだ学んでいる感じで、自分でも全部を理解できてはいないんですけど、DXラボで培ってきた技術を生かして、「こんなシステム開発ができそうだ」と自分から言える立場になれたらいいのかなと思います。
平日は職員、休日は大学院生──両立の実際の時間割
米谷:大学院での学びと情報部の業務、いまはどう切り分けていますか。
岩河:学業に関しては、もう土日とか休日にするという感じで、平日は仕事に専念するという感じにしています。
米谷:授業はどんな形で受けているんでしたっけ。
岩河:オンデマンドで受けているので、実際に教室に行って受けたりということはないです。
米谷:なるほど、だから休日にまとめて学べるんですね。業務と授業がぶつかって困る、ということは今のところ大丈夫ですか。
岩河:はい、いまのところは大丈夫です。
米谷:研究室側でも、ゼミの時間は社会人を基準にフレキシブルにしていて、17時半以降に開催する形で調整しています。そこは研究室としての配慮ですね。
木村:情報システム課としても、岩河さんが大学院で学んでいることは、かなりポジティブでいいことだと思っています。業務の中でも、研究とマッチするような仕事の内容はぜひやってもらいたいと思っていますし。あとは、香川大学全体で「ノー残業デーを各課で設けましょう」という決まりがあるんですけど、いつに設定するかは情報システム課の裁量なので、先生のゼミがある水曜日に設定させてもらっています。研究と仕事が変にバッティングしないように、調整をつけやすい運営を課長も考えてくれているのかなと思います。
岩河:そこは本当に助かっています。あと、採用が決まったときは「学生と職員の両方をちゃんとやっていけるんだろうか」「まだ知識もないし大丈夫かな」という不安もあったんですけど、同じ研究室に社会人の学生さんがいたりしたので、なんとかやっていけるかなとは思えました。
米谷:先行事例があるというのは、後に続く人にとって大きな安心材料になりますね。
業務をただの業務で終わらせず、研究として捉え直す
米谷:実務の課題を研究的に捉える、研究で培ったものを実務に還元する。このサイクルについて、いま感じている可能性はありますか。
岩河:ただ業務しているだけだったら、AIエージェントの開発やBIの開発で、それなりのものは開発できると思うんです。でも、それを研究に関連づけてやっていくようにすることで、業務もより良いものにしていけるんじゃないか、というのはあります。そこはちょっと生かしていきたいと思っています。
米谷:取り組み自体をもう一度、俯瞰的な目で見て、どの要因にアプローチすればより良くなるかを考える。それはまさに研究的な視点ですね。
岩河:研究者像としては、実務を研究にも生かして、研究で得たことも実務に生かして、いい成果を還元できるようにしたいと思います。
米谷:今後、身につけたい技術や専門性についてはいかがですか。
岩河:最近話題のAIエージェントの技術や、Power Platformでまだ知らないこと・把握できていないことを理解していけたらと思っています。あとはセキュリティとか運用についてもあまりまだ理解できていないので、その辺も勉強していきたいです。職員としては、周りの困っている人の話を聞いて、自分なりに技術を使って解決できる人になりたいなと思います。
米谷:大学全体という視点では、どんなことに取り組んでみたいですか。
岩河:まずは、教職員や学生の負担が減るようなAIの仕組みを作れたらと思っています。クラウド基盤のことはまだあんまり分かっていないんですけど、ライセンスといったところで、より使える人が増えれば業務の効率化にもつながっていくと思うので、その辺にちょっと取り組んでみたいです。
木村:DXラボで培った現場の目線、利用者が本当に欲しいものは何かというところを、今後も考えながら見つけていってもらって、そこに今までの技術を投入してもらう。みんなが喜んでもらえるようなものができたら、すごく嬉しいなと思っています。
後輩と、働きながら学びたい人へ
米谷:最後にメッセージをお願いします。まずは香川大学の後輩やDXラボスタッフへ。
岩河:ちょっとでも興味があったり、できそうだなと思ったことがあったら、それほど技術がなくても、ちょっとやってみるということをしてみたらいいんじゃないかなと思います。それがすごくいい経験になったりすると思うので。
米谷:ご自身がまさに、プログラミングに自信がない状態からDXラボに入られたわけですものね。
岩河:はい。やってみたら、意外と形になりました。
米谷:では、他大学も含めて、職員として学び直したいと考えている方へはいかがでしょう。
岩河:働きながら学べる機会というのは、今時は増えてきているのかもしれませんが、それでもまだ少ないと思います。後輩へのメッセージと同じようなことにはなるんですけど、ちょっと学んでみたいなとか、気になるなと思ったりしたら、香川大学で学んでみるというのもありなんじゃないかなと思います。
木村:岩河さんが実際にその道を歩いているというのが、何よりの説得材料だと思います。技術を持った人が学び続けられる環境を、私たちもこれからつくっていきたいですね。
米谷:ありがとうございました。
おわりに
岩河さんの話に一貫していたのは、「分からない」を抱え込まないという姿勢でした。プログラミングが得意でなくてもローコード・ノーコードで手を動かしてみる。APIが分からなければ企業の方に聞く。BIの見せ方が分からなければ先生に見てもらう。SSL証明書の更新が分からなければ、自分で調べて、周りに聞く。うまくいかず頓挫したフローのことも、隠さずに話してくれました。
そして職員になった半年で、その視界には新しいものが入ってきました。ライセンスの数、予算、セキュリティ。学生のときは「どんどん開発していこう」で済んでいたことに、いまは立ち止まる理由が見えている。つくる力と、止める判断。その両方を持つ職員が学内から育っていることは、DXを外注ではなく内製で進めようとする大学にとって、おそらく最も再現しにくい資産です。
平日は職員、休日は大学院生。ゼミは17時半以降、課のノー残業デーは水曜日。この記事に出てくる工夫は、どれも壮大な制度ではなく、目の前の一人が学び続けられるようにするための小さな調整です。大学でDX人材を育てたい方、働きながら学び直したい方にとって、そのスケール感こそが参考になるのではないかと思います。
