インタビュー

interview

学生

六車 俊紀

香川大学 創発科学研究科(大学院) 

通勤届申請システム

 

KadaSign<電子決裁システム>

【DXラボスタッフOBに聞いてみた】きつねうどんチームスクラムマスター 六車 俊紀


現場での泥臭い実践の中で揉まれて鍛えられた
               ――六車が語る、香川大学DXラボの実践知 



DX推進研究センター客員研究員 油谷知岐

DX推進研究センターDXラボスタッフ卒業生  六車俊紀


DX推進研究センター特命教授 浅木森浩樹


香川大学DXラボのスタッフブログでは、DX推進の現場で活躍する学生や研究員のリアルな声をお届けしています。今回の記事は、2024年度にDXラボのきつねうどんチームのスクラムマスターとして活動してくれた六車さんへのインタビューをもとに、彼がどのように現場で成長し、どんな視点や工夫を持って取り組んできたのかを深掘りします。

現場の最前線で泥臭く奮闘した六車さんの「本当に大事な現場の実践知」を探ります。
「学生主体の開発の大切さ」や「リーダーシップの難しさ」といった抽象論に留まるのではない、バグだらけのシステム引き継ぎ、現場の本音に直面する苦い経験、分業と丸投げの狭間で悩みながらも前に進めた工夫など、現場で揉まれて鍛えられた“生きたノウハウ”を具体的なエピソードとともに語ってくれました。


※2025年3月19日インタビュー
※所属や職階は記事公開時点のものとしています。


スタッフが開発したシステムはこちらをご覧ください


通勤届申請システム


KadaSign<電子決裁システム>

※インタビュー内容の一部はMicrosoft Copilotを用いて自動要約し、一部修正を加えたものです


自己紹介

油谷:こんにちは。DX推進研究センター客員研究員の油谷です。

浅木森:同じくDX推進研究センター特命教授の浅木森です。 

六車: 2025年3月に香川大学大学院 博士前期課程を修了した六車です。2024年度はきつねうどんチーム(以降,きつねチーム)のスクラムマスターとして、DXラボのプロジェクト運営や学生スタッフのまとめ役を担当していました。



バグだらけの引き継ぎ――「泥臭い」運用保守の現場

油谷:まずはDXラボでどんな仕事を担当していたか聞かせてもらえますか? 

六車: はい。DXラボに参加して一番最初は、既存システムの運用保守や引き継ぎがメインでした。前任者が管理していたシステム(電子決裁システムKadaSignなど)を引き継ぐところから始まりました。 

油谷:具体的には、どうやって引き継ぎをしてもらったんですか?

六車: 実際にシステムを触ったり、DXラボが運営するWebサイトであるソリューションカタログに掲載するために、システムの狙いを整理したり、インポート用のパッケージを準備したり。あとは活動の中で気づいたバグだったり、要件が変わったところを微修正しながらシステムについての理解を深めていきました。

油谷:体系的に教えてもらったというよりは、実践的な学びだったんですね。結構スムーズに理解できたんですか?

六車:いえ、なかなか苦労しました。例えば、環境ごとに設定が違って動かないことが多く、原因の究明に苦心しました。具体的には例えば、電子決裁システムではデータベースが複数あってIDで結びつけている(※RDBMSでいうところのテーブルが複数あり外部キーによって関連づけている、という意味)んですが、この接続のためには環境によって設定が違うと機能しなかったり、参照の際にバグがあったり。しかも、実は開発が途中で断念されたシステムだったので、ドキュメントも不十分で、手作業で一つ一つ動作確認しながら修正していく必要がありました。 

油谷:それは大変そうですね・・・。システムを自動でテストする仕組みとか、何か簡単にする方式はあったりしなかったんですか?

六車: 少なくとも当時はなかったですね。Power Appsのようなローコードツールだと、一般的なプログラミング言語のようなテストフレームワークがないので、想定されうる入力パターンをシステムのユースケースに沿って自分で手作業で網羅的に試して、バグを潰していくしかありませんでした。例えば、「申請が二段階ある場合、途中で取り下げたらどうなるか」、「ちゃんと消えているか」など、ヒューリスティックに一つ一つ確認していきました。

油谷:気が遠くなりそうな作業ですね・・・。

六車: そうですね、正直、「泥臭い」作業の連続でした。ですが、このときに試行錯誤した経験があったおかげで技術力の底上げにつながったと思います。この意味では、最初に苦労できてよかったのかもしれません。 


ソリューションカタログ化の裏側――「現場の本音」と“泥臭い”修正作業

油谷:KadaSignのソリューションカタログ化は、どんなプロセスで進んだんですか?

六車: 実は前任者が作っていたKadaSignは、香川大学における決裁に関する学内規定(文書管理規定)との衝突や、決裁情報の電子管理が認められないなどの理由で、途中で実践導入を断念することになっていました。最初は前任者が作ったシステムをそのまま公開しようとしていたんです。実際、このシステムは公開しています。ですが、このシステムは、データベースシステムとして単純なSharePointではなく、高機能でやや複雑なシステムであるDataverseを使って作られていました。このDataverseは実利用には別途契約が必要になる部分があり、広くみなさまに公開するには難がありました。ですので、SharePointに移行して無料で使える範囲に留める形で再構築したんです。ですが、この修正の過程で既存システムのバグ修正や環境ごとの調整がたくさん必要になり、苦労しながら進めました。

油谷:何かと一筋縄ではいかなかったわけですね。これだけ苦労したシステムであればみなさん使いたがってくれるものですかね?実際の現場の反応はどうでしたか? 

六車: 現場の職員さんからは、肯定的なお声もいただきましたが、逆に「導入したくない」という声もありました。便利になるシステムと現場の負担は必ずしも一致しないんですよね。例えば、導入するシステムに合わせて業務プロセスを変えるのが難しいとか。実際にシステムを見せに行ったとき、「これは要らない」と否定的な意見をもらったこともあり、現場の本音に直面する経験ができました。この経験から、現場の意見を聞きながら、必要最小限の機能に絞ることが重要だと実感しました。

油谷:なかなか辛い体験ですね。ちなみにそのとき、どう対応したんですか?

六車: 最初は「自分が作ったものに愛着があって『これは絶対必要だ』」と思い込んでいましたが、現場の声を聞いて「自分の視点だけじゃダメなんだ」と実感しました。それ以来、ユーザの意見を聞き出し、必要最小限の機能に絞ることを意識するようになりました。



現場調整と産学連携――学生が担う“調整役”のリアル

浅木森:大学職員や産学連携、あるいは学外の人との協働で壁を感じたことはありますか? 

六車: 大学職員の方とのやり取りでもそうですし、企業との共同研究で携わった産学連携プロジェクトでもそうだったんですが、相手は社会人なので「相手にどの程度頼っていいのか」、「忙しいのにお願いしていいのか」と悩むことが多かったです。香川大学DXラボでは、問題が起きたときには大学職員の方や共同研究先の企業の方と自分たちの間に、DX推進研究センターの職員さんや先生方が入ってくれて、現場との調整やトラブル対応をサポートしてくれたり、教職員・学生・企業の方が協働して開発する体制があり、心理的安全性が確保されていたので、安心して開発や運用に集中できました。

油谷:現場を経験した人ならではの迫真性のあるお話をいろいろ聞かせてもらいました。ありがとうございました!

六車:ありがとうございました。


おわりに

今回のインタビューでは2024年度にDXラボのスクラムマスターとしてチームをまとめてくれた六車さんのお話を伺いました。「バグだらけの引き継ぎ」「現場の本音に直面」「分業と丸投げの狭間」「現場で揉まれて鍛えられた」など、現場でしか得られない泥臭いノウハウを語ってくれました。香川大学DXラボの強みは、学生が現場のために動き、現場で本当に必要なものを作り上げていくプロセスにあります。この記事が、これからDX推進に取り組む方や、学生スタッフとして現場で成長したい方の参考になれば幸いです。 

香川大学DXラボの現場で得られる学びは、きっと他の大学や組織でも活かせるはずです。今後もスタッフ一人ひとりのリアルな声をお届けしていきますので、ぜひご期待ください。