インタビュー

interview

職員

末廣 紀史

香川大学 情報システム課 課長

【DXラボスタッフに聞いてみた】情報システム課 課長 末廣紀史


DX推進研究センター特命准教授 久我 透

情報システム課 課長 末廣紀史


情報システム課 木村悠佑


香川大学DXラボのスタッフブログでは、DX推進の現場で活躍する学生やスタッフのリアルな声をお届けしています。今回の記事では、DXラボを立ち上げた時期から開発環境の構築や技術支援を担ってきた情報システム課 課長・末廣紀史さんに焦点を当て、大学職員の立場からどのようにDXを支えてきたのか、そしてその中で得られた知見や工夫について深掘りします。
本記事では「大学職員としてのDX推進のリアル」に迫ります。特に、技術職員が変化に対して慎重になる傾向や、それを乗り越えるための学び直しによる変革の実践など、末廣さんならではの視点が満載です。

これまでの学生スタッフ中心の記事とは異なり、今回は大学職員としての視点からDX推進の制度設計・技術支援・組織運営のノウハウに焦点を当てています。大学DXの本質に迫る内容となっていますので、ぜひご一読ください。

※2025年10月20日インタビュー
※所属や職階は記事公開時点のものとしています。


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※インタビュー内容の一部はMicrosoft Copilotを用いて自動要約し、一部修正を加えたものです。


自己紹介

久我:DX推進研究センター特命准教授の久我です。今日はよろしくお願いします。

木村:情報システム課の木村です。今日はよろしくお願いします。

末廣情報システム課の末廣紀史です。技術職員としてDXラボの裏方を担っています。もともとはITベンダーで8年ほど働いていて、12年前に香川大学へ転職しました。



技術職員がDX推進に貢献するために

久我:まず、末廣さんが大学に来られた背景から伺いたいのですが、ITベンダーから大学に転職された理由は何だったのでしょうか?

末廣もともと、大学のIT環境を構築する業務を担当していました。ITベンダーとして何十大学という数を同時に担当するよりも、ひとつの大学の職員として、大学人として大学の発展に貢献したいと思っていました。

久我:実際に大学で働いてみて、民間との違いは感じましたか?

末廣大学だからというわけではないかもしれませんが、ユーザ企業(大学含む)側の技術者の方が、組織内で技術力を示して立場を誇示する印象があります。技術職員が“所有意識”を強く持っていることですね。自分の担当システムに責任感を持つのは良いことですが、その分、外部との連携や新しい取り組みに対して慎重になる傾向があります。これは、DXを進める上で乗り越えるべき課題だと感じました。

久我:それは日本的な課題とも言えそうですね。

末廣そうですね。でも、慎重さは裏を返せば品質や安定性へのこだわりでもあります。だからこそ、技術職員自身が視野を広げ、変化を前向きに捉えることが重要です。僕自身も学部は文学部出身でしたが、2020年に香川大学大学院創発科学研究科修士課程に進学して、技術職員として働きながら学び直しをしました。業務経験を学術的に裏付けることで、リスクマネジメントや要件定義の重要性を再認識できました。

木村:学び直しがDX推進にどう活きたか、具体的に教えていただけますか?

末廣例えば、ブロックチェーンやマイクロサービスなど、最新の技術要素を学ぶだけではなく、プロジェクトマネジメントの価値実現システムやパフォーマンス領域など、組織全体の情報システムの設計や運用まで考えるようになりました。これは大学院での学びが大きかったです。



DXラボの裏方としての役割と設計思想

久我:DXラボでは、どのような役割を担っているのでしょうか?

末廣主に2つあります。1つは、Microsoft365やローコード・ノーコードツールの環境の設計と導入と整備と運用。これは認証基盤の連携や予算の確保、導入の必要性の説明や利用するポリシーを決めることなど多岐にわたりますね。もう1つは、大学全体の情報システムの設計です。SoR(System of Record)、SoI(System of Insight)、SoE(System of Engagement)という概念を理解した上で、どこに何を配置するかを考えています。データを機密性高く保持するのか、学内のシステムと連携したりクラウドサービスと連携できるような場所に置くのか、といったところも考える必要があります。

久我:それはかなり高度な設計ですね。学内調整も含めて大変では?

末廣はい、障害対応も含めて、いろいろありますね。ただ、一人ではないですし専門知識のある教員との連携もあって運用ができています。教員と職員が「車の両輪」として動けているのが香川大学の強みだと思います。

木村:教員と職員の関係性について、もう少し詳しく教えていただけますか?

末廣よく「吉本芸人とマネージャー」って例えるんですけど(笑)、教員が専門性を発揮して舞台に立てるように、職員は裏で支える。でも、ただ支えるだけじゃなくて、適切な舞台を用意して戦略的に動く。香川大学ではその連携が自然にできているんです。



学生スタッフとの関係性と組織の理想像

木村:学生との関係性についても伺いたいです。DXラボでは学生が主体的に動いていますが、職員としてどう関わっているのでしょうか?

末廣学生を“同僚”として見ています。彼らの成長が組織の成長につながると信じているので、対等な立場で接しています。実際、学生が職員と打ち合わせをして、動かすところまでもっていった数多くのシステムが、DXラボのホームページからダウンロードされて全国に波及していることは喜ばしいです。

木村:それは素晴らしいですね。今後の展望についても教えてください。

末廣香川大学のDXの取り組みが、日本の大学のひとつのモデルになっていけたらと思っています。また、大学組織やインフラの変革を進めていきたい。

久我:最後に、理想のDX推進の組織像について教えてください。

末廣経済産業省のDXレポート2中間とりまとめに示されているように、教員・職員・学生とITベンダーが一緒に共創活動をする体制が理想です。香川大学はその理想に近づいていると自負しています。


図 アジャイル開発の形(受託から共創/共育へ)
※出典)経済産業省,DXレポート2中間とりまとめ


おわりに

末廣さんのインタビューからは、技術職員としての課題意識と、それを乗り越えるための実践が見えてきました。香川大学のDX推進が成功している背景には、こうした“裏方”の努力と戦略があることがよくわかります。

今後、香川大学におけるDX推進のさらなる発展に向けて、末廣さんがどのような工夫や挑戦を重ねていくのか、大いに注目されます。技術職員という枠を越えた視点と実行力が、これからの高等専門教育の変革に貢献していくことが期待されます。

香川大学DXラボの現場で得られた学びは、きっと他の大学や組織でも活かせるはずです。今後もスタッフ一人ひとりのリアルな声をお届けしていきますので、ぜひご期待ください。