インタビュー

interview

職員

小寺 賢志

香川大学 DX推進研究センター デジタルONEアンバサダー統括

【DXラボスタッフに聞いてみた】デジタルONEアンバサダー統括 小寺賢志


DX推進研究センター特命准教授 久我 透

DX推進研究センター デジタルONEアンバサダー統括 小寺賢志


情報システム課 木村悠佑


香川大学DXラボのスタッフブログでは、DX推進の現場で活躍する学生やスタッフのリアルな声をお届けしています。今回の記事は「制度設計と運用のコツ」に焦点を当てます。主役は、全学の職員を巻き込む「デジタルONEアンバサダー」制度を立ち上げ・統括してきた小寺賢志さん。アンバサダー制度は、各部局から毎年50~60名を任命し、常勤事務職員の6割超が経験済みという規模にまで拡大。業務時間の2割をDX活動に充てる設計や、学長表彰・人事評価との接続など、現場が動けるしくみを丁寧に整えてきました。本記事は、その「裏側のつくり方」を、現場視点で立体的に描きます。

※2025年9月19日インタビュー
※所属や職階は記事公開時点のものとしています。


本記事に関連する学術論文はこちらをご覧ください


非情報系事業部門職員を対象とした「香川大学デジタルONEアンバサダー」による業務システムの内製開発の取り組みとその効果


クラウド型プラットフォームを活用した支払予定表作成業務の効率化に関する取り組み


派生開発による建物修繕依頼システムの内製開発


※インタビュー内容の一部はMicrosoft Copilotを用いて自動要約し、一部修正を加えたものです



自己紹介

久我:DX推進研究センター特命准教授の久我です。DXラボの活動にPMOの一人として参画しております。今日は「制度づくりの現場知」を深堀りしたくて、お時間いただきました。よろしくお願いします。

木村:情報部の木村です。同じくDXラボの活動にPMOの一人として参画しております。アンバサダー制度の“運用側の目線”も交えて伺っていきます。よろしくお願いします。

小寺:小寺賢志です。2025年3月まで情報部でDX推進を担当し、デジタルONEアンバサダーの立ち上げと統括を務めておりました(現在は修学支援課に従事)。本日は、制度設計や広げ方の実際をお話しできればと思います。



「制度」まで落とし切る:アンバサダーの“2割ルール”はこう決めた

久我:最初に、アンバサダー制度の核である「業務の2割をDX活動に充てる」という設計、どのように合意形成したのですか?「手が空いたらやる」では絶対続かないですよね。

小寺:おっしゃる通りです。毎年50~60名を各部局から任命し、2割の業務時間をDXに充てることを経営層と明確に取り決めました。さらに学長表彰や人事評価に活動実績が反映される仕組みを人事部門と連携して整備しています。これで「やるべき仕事」として組織に位置づけられ、現場が動ける前提が整いました。

木村:時間と評価、両輪で押さえたわけですね。常勤事務職員の6割がアンバサダー経験者という広がりは、その効果の証左に見えます。

小寺: そう思います。「制度に落とす」=時間配分・評価・表彰を先に決めることが、活動の持続可能性を劇的に高めました。



「勝手にやってる」と思わせない:上司・関係部門への“伴走型”根回し 

木村:制度があっても、「本務に支障が…」という上司の懸念は尽きません。丁寧に解いたポイントは?

小寺:“勝手にやっている”ように見せないことです。各アンバサダーの上司に活動内容を共有し、必要に応じて一緒に打合せに入る。可能な限り一体運用に見えるよう伴走しました。これで「DX活動=余計な負担」という誤解を避けられました。

久我:アンバサダー本人に押し付けず、統括側が上司へも伴走するんですね。現場の安心感が違います。

小寺: はい。段階的に“協力者(仲間)を増やす”のがコツです。一足飛びに変えようとせず、理解が深まる順序で進める。結果的に部局の納得感が高まり、制度が根づきました。



パイロット→制度化へ:メールアドレスのリプレースで“前進の手応え”を作った

久我:制度に至る前に、パイロットとしてメールアドレスのリプレース(※)をアンバサダー的に走らせたと伺いました。何が効きましたか? 

小寺: はい。いきなり大がかりにせず、メールアドレスのリプレースで“合意形成の型”を先に学んだことが大きいです。関係部門をまたぐ調整の手順、現場の困りごとの吸い上げ方、完了後の周知・見える化までを一連の運用パターンとして蓄積できました。これが正式なアンバサダー制度の設計に直結しました。   

木村:「小規模な成功体験を積み重ねて、信頼と理解を得ていった」ということですね。

小寺:そうです。成功の見える化が、上層部の後押しと現場の納得を同時に生む——この順序設計が要でした。

※「1人1アカウント」方針のもと、業務引継ぎ用の職名IDを廃止し、個人IDのみを業務利用する体制へ移行。ライセンス数削減・セキュリティ強化を図った(2021年実施)



プロ開発者と市民開発者の“橋渡し”を、役割として決める 

久我:香川大学のDX推進ではDXラボ(プロ開発者)が業務システムの内製・可視化を牽引する一方、デジタルONEアンバサダー(市民開発者)も現場起点の改善を担います。両者の連携は誰がどう担ったのでしょう? 

小寺:DXラボとデジタルONEアンバサダーの“橋渡し役”を自分である統括の役割として明確化しました。連携する各プロジェクトに対して、要求整理→分担分け→優先順位付け→導入部署の伴走まで、誰がどこまでするかを早めに言語化したのが奏功しました。

木村:線引きを先に言語化、ですね。開発と現場の“ねじれ”が減ります。

小寺:はい。“役割が曖昧なまま走らない”。これも制度化の一部です。



常勤の6割超が経験者に  

小寺:デジタルONEアンバサダーの任期は1年としました。毎年入れ替わる設計により経験者の裾野が広がり、いまは常勤事務職員の6割が経験者です。経験者の“再拠点化”(所属に戻っての横展開)も進みやすくなります。

木村:任命の“回転”が学内のDXリテラシーの底上げに効いている、と。

小寺:その通りです。任命→経験→再拠点化の循環をつくれたのが、面で効く理由です。



おわりに

今回のインタビューでは、デジタルONEアンバサダー統括の小寺賢志さんのお話を伺いました。「業務時間の2割をDX活動に充てる制度設計」「上司・関係部門への伴走型の根回し」「プロ開発者と市民開発者の橋渡し」など、制度を立ち上げ・統括するうえでの実践的なノウハウを語ってくれました。 

この記事が、これからDX推進に取り組む方や、現場起点で制度づくりに挑戦したい方の参考になれば幸いです。 


香川大学DXラボの現場で得られた学びは、きっと他の大学や組織でも活かせるはずです。今後もスタッフ一人ひとりのリアルな声をお届けしていきますので、ぜひご期待ください。