- 香川大学DXラボのスタッフブログでは、DX推進の現場で活躍する学生やスタッフのリアルな声をお届けしています。
今回は、開発組織であるDXラボの全体統括としてマネジメントを担ってきた、情報化推進統合拠点 DX推進研究センター 特命教授・浅木森浩樹さんへのインタビューをもとに、2021年の立ち上げ期から現在に至るまでの取り組みを、前後編に分けてお届けします。(全2回)
前編では、DXラボがどのような体制でプロジェクトを進め、「ユーザ価値と向き合い続ける」という判断の軸を形づくってきたのかを見てきました。
後編となる本記事では、そうした考え方を、学生主体のチームの中でどのように共有し、人や文化として育ててきたのかに焦点を当てます。
学生がプロジェクトを「ジブンゴト」として捉えるための関わり方や、「失敗を糧に次に繋げる」環境づくりなど、DXラボならではのマネジメントの工夫について、浅木森さんの言葉をもとに掘り下げていきます。
教員
浅木森 浩樹 <後編>
香川大学 情報化推進統合拠点 特命教授 DX推進研究センター
【DXラボスタッフに聞いてみた】教員 浅木森浩樹 <後編:マネジメント編>
※インタビュー内容の一部はMicrosoft Copilotを用いて自動要約し、一部修正を加えたものです。
※本インタビューは2026年3月時点の内容です。
前回のインタビュー記事はこちらです。
→浅木森浩樹<前編>|教員|インタビュー|香川大学DXラボ
学生チームのマネジメントについて ージブンゴト化ー
米谷:ここまで伺ってきた「ユーザ価値と向き合い続ける」という考え方は、最終的には学生が主体的に考えて動けるかどうかが重要になってきそうですね。
浅木森: そうですね。ラボの活動は学生が中心なので、学生一人ひとりが「これは自分たちのプロジェクトだ」と思えているかどうかは、とても大きいと思っています。
米谷: 学生がジブンゴトとして捉えられるようにするために、意識していることはありますか。
浅木森: まずは「考える場」に出てもらうことですね。チーム内の定例だけでなく、隔週で実施しているステコミ会議で、自分たちの取り組みを学生から報告してもらうようにしています。報告する場に出ると、「なぜこのシステムを作っているのか」「今、何が課題なのか」を自分の言葉で整理しないといけなくなる。
米谷: 報告する場に出ることで一度立ち止まり、自分たちの取り組みを整理し直す。そのプロセスを通じて、「これは自分たちのプロジェクトだ」と改めて捉え直すようになります。
浅木森: そうですね。最初は「作っています」「進んでいます」という作業報告になりがちですが、質問を受ける中で、「それは誰のための機能なのか」「次にどうしたいのか」と考えるようになります。そこから少しずつ、自分たちが関わっているプロジェクトとして捉え直していく印象があります。
米谷: 「価値を語れるかどうか」とも、つながってきますね。
浅木森: まさにそこです。価値を語れないと、報告もできないし、議論も深まりません。逆に、価値を自分の言葉で語れるようになると、改善案や次の一手が学生から出てくるようになる。
米谷: 教員としては、どこまで関与するかのバランスも難しそうです。
浅木森: 教員側が価値や方向性について問い返すことで、どう作るか、どう進めるかを学生に考えてもらう。その方が、結果的にジブンゴトになります。
米谷:チームリーダーを学生が務めているのも、その一環ですね。
浅木森:はい。リーダーになると、技術だけでなく、メンバーやユーザのことも考えざるを得なくなります。自分のタスクではなく、チームやプロジェクト全体を見る立場になることで、「自分がこのシステムを動かしている」という感覚が強くなるように感じています。
米谷:価値に責任を持つ主体を、学生の中に育てている、とも言えそうですね。
浅木森: そうですね。ラボとして大事にしているのは、「失敗しないこと」よりも、「自分たちで考え続けられること」です。学生自身が、価値を考え、試して、振り返る。そのプロセスを「自分たちのプロジェクト」として経験することで、少しずつジブンゴトになっていく。結果として、前編で触れた「ユーザ価値と向き合い続ける」という考え方も、実体験として身についていくのだと思います。
ラボの強みについて、企業との違い ー失敗を糧に次に繋げるー
久我: ここまで、学生が価値に責任を持つ主体として育っていく話を伺ってきました。そうした取り組みが可能になっている背景として、大学ならではの環境があるように感じます。
浅木森: はい。大学、特に研究組織であるDX推進研究センター DXラボは「失敗できる環境」であることが大きいと思います。ただし、ただ失敗していい、という意味ではないです。
久我: 「失敗できる」という言葉だけが一人歩きすると、少し甘く聞こえてしまうこともありますよね。
浅木森: そうですね。研究組織として大事にしているのは、失敗をそのまま失敗で終わらせないことです。 うまくいかなかった理由を整理して、次にどう生かすかを考える。場合によっては、別のテーマや他のチームのナレッジとして展開したり、研究成果としてまとめたりする。そこまで含めて意味があると考えています。
久我: 失敗そのものよりも、「そこから何を学び、どう残すか」が重要だと。
浅木森: はい。企業の場合、期限や成果が明確なので、途中でうまくいかなかった取り組みは、そのまま終わってしまうことも多いと思います。一方で大学では、うまくいかなかったプロセス自体を振り返り、次に活用できる知見として残すことができます。
久我: それが、DX推進研究センターの「研究」としての役割にもつながっている。
浅木森: そうですね。システムが完成したかどうかだけでなく、どういう判断をして、どこでつまずき、そこから何が見えたのか。その過程を言語化して共有・発信していくことに価値があると思っています。
久我: 学生にとっても、「失敗してもいい」ではなく、「失敗を材料にできる」経験になるわけですね。
浅木森: その通りです。失敗して終わりだと、ただのマイナス体験になってしまう。でも、なぜうまくいかなかったのかを考え、次にどうつなげるかまで経験できると、学びとして残ります。
久我:「自分たちで考えさせる」という姿勢とも、きれいにつながりますね。
浅木森: はい。ラボでは、考えて試して、うまくいかなかったら振り返って、別の形で生かす。その循環を回し続けることを大事にしています。
久我: 失敗を恐れない、というより、「失敗を糧に次に繋げる」環境だと言えそうです。
浅木森: まさにそうですね。失敗から学び、それを次のテーマや研究成果として発信し続ける。 その姿勢が、DXラボの活動のあり方そのものを形作ってきたのだと思っています。
DXラボの変遷
米谷: ここまでのお話を伺っていると、DXラボは制度や体制というより、考え方そのものが少しずつ変わってきたように感じます。浅木森さんご自身としては、ラボの変遷をどう捉えていますか。
浅木森: デジタルONE構想のような上位の考え方はありましたが、DXラボとしての判断の軸や進め方は、実践を通じて具体化されてきたものだと思います。むしろ、自分自身が開発やマネジメントに関わる中で、だんだんと整理されてきた言葉がいくつかあって、それが結果的にDXラボの雰囲気や判断の軸になってきた、という感覚です。
米谷: その言葉というのが、 「ユーザ価値と向き合い続ける」「ジブンゴト化」「失敗を糧に次に繋げる」ですね。
浅木森: はい。まず「ユーザ価値と向き合い続ける」は、開発を続ける中で自分の中に強く残った言葉です。作ること自体ではなく、「その先どうなるのか」「次に繋がるのか」を考えないと、ラボとして意味がないと感じる場面が増えてきた。明文化しているわけではありませんが、価値を語れない案件は自然と次に進まない、という空気ができてきたと思います。
米谷: 二つ目が「ジブンゴト化」ですね。
浅木森: これは学生の関わり方を考える中で、後から言葉になったものです。誰かが「こうしなさい」と決めたわけではなく、うまく回っているチームほど、学生自身が自分の言葉で語り、判断している。その違いを見ていく中で、「ジブンゴトになっているかどうか」が、自然と共通の見方になってきました。
米谷:三つ目が「失敗を糧に次に繋げる」。
浅木森: 大学、研究組織として活動する以上、失敗の扱い方は避けて通れません。単に失敗を許容するのではなく、なぜそうなったのかを整理し、次にどう生かすかを考え、研究として残していく。この考え方も、誰かが方針として示したというより、実践を重ねる中で「それがラボらしい振る舞いだよね」という理解が揃ってきたものだと思います。
米谷:3つの言葉はいずれも、浅木森さんご自身の実感から生まれたものだけれど、今ではラボの中で違和感なく通じるようになってきている。
浅木森: そうですね。全員が同じ言葉で説明できるわけでもありませんし、明文化されているわけでもありません。 ただ、判断に迷ったときに、似た観点で議論が進むようになってきた。そういう意味で、言葉というより、考え方や感覚が文化として根付いてきたのだと思います。
米谷: 理念を先に作ったのではなく、やりながら揃ってきた。
浅木森: まさにそうです。だからこそ、これを完成形だとは思っていません。状況に応じて言葉も更新しながら、変わり続けられる組織でいたいと思っています。
今後にやりたいこと
久我: ここまで、DXラボがどう変わってきたかを伺ってきました。最後に、浅木森さんご自身として、今後DXラボで取り組んでいきたいことを教えてください。
浅木森: これまでの取り組みを通じて、はっきりしてきた課題もあります。 一つは、事業部門としての大局的な方針を、十分に引き出せていないという点です。
米谷: 方針、というのは。
浅木森:個々のシステムや課題解決で終わってしまうケースが多くて、その先に「大学としてどうしていきたいのか」「この事業部はどこを目指しているのか」という話につながりにくい。 結果として、各個撃破になってしまっている、という感覚があります。
米谷: 「価値をどう語るか」とも重なりますね。
浅木森: そうですね。DXラボとしては、目の前の課題解決はできます。でも、それが大学全体の方向性や、事業部の中長期的な方針につながっていないと、どうしても点の活動で終わってしまう。その状態では、上層部が「これは良い成果だ」と感じにくい部分もあると思っています。
久我:では、その「方針」は、誰が作るべきものだと考えていますか。
浅木森:DXラボが一方的に決めるものではないと思っています。本来は事業部が考えるべきもので、DXラボはそれを引き出す役割に近い。事業部側の一人ひとりに、より期待している部分があります。
久我: DXラボだけでは完結しない、という前提ですね。
浅木森: はい。DXラボはあくまで触媒のような存在で、現場と一緒に考え、問いを整理し、形にするところまでを支援する。 「この課題を解決しました」で終わるのではなく、「では次に何を目指すのか」という議論につなげていきたいと思っています。
米谷:それは、これまで積み上げてきた 「ユーザ価値と向き合い続ける」「ジブンゴト化」「失敗を糧に次に繋げる」 という考え方の延長にも見えます。
浅木森: そうですね。方針がないと、価値も点で終わってしまうし、ジブンゴトにもなりにくい。 だから今後は、「方針を一緒に考える」というところまで含めて、DXラボの役割を広げていけたらと思っています。
久我: 最後に、今後のDXラボを一言で表すとしたら。
浅木森:「問いを引き出し続ける組織」でしょうか。 答えを出すことよりも、現場と一緒に問いを立て直し続ける。その姿勢を大事にしていきたいと思っています。
おわりに
本記事では、DXラボの立ち上げから現在までを、浅木森さんの言葉を通して振り返ってきました。
●「ユーザ価値と向き合い続ける」
●「ジブンゴト化」
●「失敗を糧に次に繋げる」
これらは完成した理念ではなく、実践の中で少しずつ言葉になってきた考え方です。
DXラボはこれからも、現場と一緒に問いを立て直しながら、DXのあり方を探り続けていきます。
